「やっぱ止めとけば良かった。」
切ったばかりの髪を指でつまんで引っ張る。
暫くそのまま引っ張ってたけど、暫くしたら根元の方が痛くなってきたから手を放した。
すると自然と肩から上に上がる・・・髪。
「どーしてこーなっちゃったかなぁ・・・」
いつも行ってる美容院。
予約も入れていつもの人を指名して店に行ったら、急な用事でお休みだって言うから他の人にお願いした。
「・・・それがまずかったんだよね、絶対。」
最初は良かったんだけどあたしの髪のクセを知らない美容師さんは・・・あたしの出来上がり予想よりもかなり短く切ってしまって、ただでさえ童顔に見えるあたしをさらに幼く見せる髪形にしてしまった。
相手も謝ってくれたし、お詫びにお代を半額にしてくれたから逆にまぁいっかって気になって家に帰ったんだけど・・・夜寝る前になってから事の重大さに気づいた。
眠れば桃源郷に来てしまう=こんなお子様な姿を皆に見られる・・・という事に。
どうしようって慌てても時計の針はもうすぐ深夜0時を指す。
眠れば桃源郷に行っちゃう・・・かといって髪が伸びるまで眠らない訳にもいかない。
って事は諦めて眠って、皆に笑われる前に事態を説明するしかないよね。
色々言い訳を考えて眠ったんだけど、目が覚めて部屋を出た瞬間悟浄とばったり会ったら一生懸命考えていた言い訳もどこか遠くに飛んでっちゃって・・・動揺したあたしは取り敢えず両手で頭を隠した。
そうしたらいつもみたいに悟浄がニヤリって顔して笑ったかと思ったら、ポンポンって軽く頭を撫でてくれた。
「髪切ったんだな。カワイイじゃん♪」
「で、でも切り過ぎちゃって何か子供みたいに・・・」
言い訳みたいにたどたどしく悟浄に説明すれば、首を傾げた悟浄が指であたしの額をつついた。
「んなコトねーよvチャン首筋とかキレーなんだから、そんくらい短い方が色っぽいって。」
「・・・い、色っぽい!?ガキっぽいじゃなくって!?」
悟浄の事だから絶対笑うと思ったのに、予想外の大賛辞。
「おう、オレが言うんだから間違い無し!バリカワイイv」
そう言っていつものようにあたしの頭をぐしゃぐしゃっと撫で回していくと、鼻歌を歌いながら自分の部屋へと戻って行った。
さ、さすが悟浄。
こんなに短くなったから笑われるかと思ったのに逆にこんなに喜ばせてくれるなんて・・・エロ河童の称号はやっぱ伊達じゃないな。
なんてそんな馬鹿な事考えて廊下のど真ん中でうんうんと頷きながら、踵を返せばいつの間にかすぐ側に八戒が立っていた。
「おや、。髪を切ったんですか?」
しっしまった!!八戒って気配消して立ってるからわかんなかった!!
髪の毛を隠す間もなくてどうしようって思ったけど、すぐにそれも諦めた。
だって・・・八戒相手に何かを隠すなんて無駄だもん。
だから聞かれる前に八戒にこの髪型になった経緯を素直に話した。
「・・・良かったです。」
「は?」
何だか今、この場にそぐわない単語が八戒の口から出た気がする。
「八戒今なんて?」
「え?あぁ美容師さんの手違いも時にはいいものだなって思ったんです。」
「どーして!?こんなに子供っぽくなっちゃったのにっ!!」
年齢だけは皆より年上だけど外見はどうしても幼く見られがち、皆と一緒に歩いていても妹みたいに周りの人に思われるのが嫌で一生懸命大人っぽく見えるようにしようと思ったのに!
まさか八戒がそんな事言うなんて思わなくて、ショックで自然と視線が床に向いてしまう。
すると目の前に立っていたはずの八戒が膝をついて、俯いていたあたしの頬に手を置いた。
「すみません、言葉が足りませんでしたね。」
「?」
「もし美容師さんがの言うとおりに切っていたら、この髪型のには会えなかったんですよね?」
「・・・う、うん。」
そりゃこの髪型は偶然の産物、というより予想外の出来事だから。
「ですから、いつもと違う貴女が見られて嬉しい・・・という意味で言ったんです。」
「・・・」
「いつものも可愛らしいですけど、この髪形のも十分可愛らしいですよ。」
にっこり笑顔で八戒にそう言われて・・・機嫌の直らない人っているのかな?
単純なあたしは八戒の台詞を聞いた瞬間頬を染め、今度は八戒の目を正面から見られない恥ずかしさで俯いてしまった。
八戒って・・・ある意味悟浄よりたちが悪いのかもしれない。
「はぁ〜」
今日一番のため息をついて玄関の扉を見る。
あと少しで・・・三蔵がここへやってくる、らしい。
「三蔵が来るって事は悟空も一緒だよね。悟空はきっとこの髪について何も言わないだろうけど三蔵は・・・三蔵・・・は・・・・・・」
―――――――― 笑う?
三蔵に笑われるのだけは嫌だっ!!!
もしも悟浄や悟空に笑われたら取り敢えず足を踏んで逃げる位の事は出来るし、八戒に笑われたらちょっと困った顔をすればすぐに笑うのを止めてくれる。
でも、でも三蔵に笑われるのは何だかショックが大きすぎて立ち直れない気がする!
気じゃないよっ!!絶対ショックだよ!!!
そんな動転しているあたしの頭の中にふと一筋の光が差し込んできた。
・・・そうだ!三蔵が来る前にお昼寝して向こうに帰ればいいじゃん!
そうすればこの子供みたいな頭を見られる事もないし、何も言われない。
何でこんないいこと朝の内に思いつかなかったんだろう。
そうすれば頭見られるの悟浄だけですんだのに・・・。
早速そのアイデアを実行に移すべくソファーのクッションを手にした瞬間、勢いよく玄関の扉が開いた。
・・・ま、まさかもう来た?
ゆっくりゆっくり振り返ると双肩に経文を携えて、その一言に多大な影響力を持つ玄奘三蔵法師様がそこにいた。
「三・・・蔵・・・」
「・・・おい、何を頭に乗せている。」
咄嗟に手に持っていたクッションを頭に乗せて三蔵の方を振り返った所為であっという間に突っ込まれた。
はたから見ると単なる間抜けかもしれないけど、今のあたしにはこれが精一杯の抵抗なんだもん。
「ちょ、ちょ〜っと昼寝しようかなって思って・・・」
「ほぉー俺が来るのを知っていて昼寝とは・・・イイ度胸じゃねぇか。」
あ、あぁぁ・・・三蔵の頬がピクピク引き攣ってる・・・って事は次に来るのは・・・
次の行動に備えて目をつぶると同時に頭に大きな衝撃が走った。
バシーン と言う音がしてその痛みを耐えながら床にしゃがみ込むと、足元にさっきまで頭に乗せていたはずのクッションが落ちているのに気づいた。
ま、まさか・・・
「・・・」
見られた!?こんな変な頭三蔵には見られたくなかったのにっ!!
絶対に笑われると思い、唇をかみ締めて三蔵の次の言葉を待っていたら・・・意外な言葉が返ってきて思わず聞き返してしまった。
「・・・え?」
「何だ。」
「いや、今、何て?」
「さっぱりしたじゃねぇか、と言ったが?」
眉間に皺を寄せてちょっとこっちを睨んでいるような感じだけど、笑われるとかガキとか言われると思っていたあたしにはそれ以外の言葉は嬉しい範囲に入るらしい。
ハリセンで叩かれた頭の痛みも忘れて自然と笑顔になる。
「そんな所で座ってるヒマがあるならコーヒーでも入れろ。」
「は〜い♪」
さっきまでの不安はどこへやら、スキップしそうな勢いで台所へ向かうあたしの背にかけられた三蔵の言葉は残念ながら浮かれているあたしの耳には届かなかった。
「それも悪くねぇ・・・」
という三蔵なりの最大の賛辞の言葉は・・・
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お題に使用していた物が眠っていたので掘り起こしましたが手直し一切ナシです!(ある意味チャレンジャー(笑))
NO:14まいサンの『髪を切ったら予想外に幼い感じになってしまった主人公にどう反応するか!?』でお相手三蔵と言う事だったのですが、すみませんっっ!!あの二人も登場しちゃいました(TT)
一応オチは三蔵にしたのですが・・・何だか中途半端なお願いの叶え方でスミマセン(苦笑)
取り敢えず三蔵は前の髪形も、今の髪形も両方ともお気に召しているみたいですv
それを言葉にするには前者の二人のように言う事は出来ませんが・・・(苦笑)
本当に中途半端な願いの叶え方ですね。お星様、反省しますm(_ _)m